【相続の概要】
  (1)相続とは
  「相続」という言葉が新聞、テレビ等のマスコミにおいて頻繁に登場してきますが、その意
  味するところは、以外に分かりにくいところがあります。そこで相続についての概要や基本
  的知識を検討して行きたいと思います。


  ① 相続とは何か
   相続とは、人の死亡を原因として亡くなった人(被相続人)の財産上の権利義務が法律上
  当然に一定の範囲の人つまり遺族(相続人)に引き継がれることを言います。

  相続される人(亡くなった人)被相続人、財産を承継する人を相続人と言います。
  
  法律上、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承
  継すする。ただし、被相続人の一身の権利義務に専属したものは、この限りでない。」
  と規定されています(民法896条)。
  
  もっとも、ここで注意しなければならないのは、財産を相続する事は、当然ですが、マイナ
    スの財産、例えば借金、滞納税金、損害賠償責任等も相続することになります。
  この場合の対策としては、相続放棄や限定承認の申立てを行うことが考えられます。


  相続人には、一体誰がなるのであろうか、また、相続人はどの程度の相続財産を相続する
  のでしょうか、いわゆる相続分については、民法で法定相続分として基準が定めれてい
  ます。


  しかし、自分の財産を特定の人に残したい場合には、遺言をすることによって民法上の法
  定相続分とは異なる相続を実現する事が可能です。


    相続が発生すると、法律上、被相続人の相続財産は相続人全員の共有とされます(民法
  898条)。相続財産のこのような共有状態から、各相続人に誰がどのような財産を相続す
  るのかを決めること、財産を各相続人に配分することを遺産分割と言います。

  そして、遺産分割の協議がまとまりその内容が確定したときは、遺産分割協議書という
  書面を作成します。
  
  
  (2)相続の開始
  相続は、被相続人の死亡によって開始されます(民法882条)。

  被相続人の死亡の他に、a 認定死亡 b 失踪宣告も相続開始の原因とされています。

 

  認定死亡とは、戸籍法の規定する制度であって、水難や火災その他の事変によって死亡
  を取調べた官・公署の報告により死亡と認定することであり、この報告がなされることに
  より、診断書や検案書なくても戸籍に死亡が記載されます(戸籍法第15条、68条)。


  失踪宣告とは、a 蒸発し音信不通の不在者が7年以上生死不明のとき b 戦地に行き生死
    不明の者、c 乗ってた船が沈没して生死不明の者、d 死亡の原因となる危難に遭ってその
  危難にあって1年以上生死が不明な場合(aを普通失踪、b〜dを特別失踪といいます)に利
  害関係人の申立てによって、普通失踪の場合は、7年経過したとき、特別失踪の場合は危
  難がさって1年間生死が明らかでないときに死亡したものとみなされます。

  (3)相続人の範囲
  誰が相続人になれるのであろうか、また相続人はなれるのは、どこの範囲の親戚までであ
  あるかに関しては、民法において詳細に規定されています。その範囲は、血族と配偶者
  されています。

  そして、血族と配偶者の範囲内に中でも一定の順位が規定されており、どのような人がい
    るかによって具体的な相続人が決まってきます。先順位の相続人がいるときには、後順
  位の相続人は、相続することができないことになります。

  第一順位は、被相続人の子(若しくはその代襲相続人)第一順位の者がいないとき、
    第二順位として被相続人の直系尊属(直系尊属とは、父母、祖父母のことを言います)、
    第二順位の者がいないときは第三順位として被相続人の兄弟姉妹(若しくは代襲相続人
  としてその子)が相続人となります(民法887条、889条)。

  配偶者(夫婦で夫からすれば、妻からすればのことを言います)は、常に相続人とな
  り順位に従って相続人となる人があればこれと同順位で相続人となります(民法890条)。

     

  
  ① 被相続人の子(若しくは代襲相続人)
  被相続人の子は、第一順位の相続人とされています(民法887条1項)。子は、実子
    養子非嫡出子を問わず、結婚によって姓を変えたを問わないとされています。
  
  なお、胎児については、民法886条は「胎児は相続については、既に生まれたものとみす
  と規定しており、相続上はすでに生まれたものとみなされます。


  相続実務では、胎児が生まれるまで遺産分割協議を保留する事が多いとされています。


  ★ 代襲相続とは
  相続が発生したときに、被相続人のが既に死亡しているときは、子の子(被相続人の孫)
    が死亡している親に代わって相続人となります。これが代襲相続です(民法887条2項)。
  
  即ち、相続発生時に、相続人の1人が死亡(欠格・廃除の場合)しているときに、その子が親
    に代わって親の相続分を相続することを言います。

   代襲相続は、相続人である親が生存していたときには、被相続人の財産を相続できたとの
  子の期待を保護するものです

  なお、代襲相続は、代襲するべき子の子(孫)も死亡しているときには、その子(被相続人
    の會孫)が代襲相続します。これに対して、第三順位である兄弟姉妹が相続人である場
  合、兄弟姉妹が死亡しているときには、死亡した兄弟姉妹の子(被相続人の甥、姪)が代
  襲相続します。
  しかし、この場合は、甥、姪が死亡していても、その子供が代襲相続人となることはなく、
    甥、姪までとされています。

  
  ★ 相続欠格・相続人の廃除とは
  相続人の死亡の外に、被相続人の子が相続人となれない場合として、相続欠格に該当す
  るとき、相続の廃除となった場合にも代襲相続が発生します。

  相続欠格は、例えば、a 推定相続人(相続人となるべき者)が故意に被相続人を殺し刑に
  処せれたとき、b 遺言に関して、偽造、変造、破棄、隠匿等を行う等、民法の定める欠格事
  由に該当する場合には、なんらの手続きなくとも当然に相続権を失います(民法891条)。

  廃除は、推定相続人が被相続人を生前に虐待し、重大な侮辱を加え、または著しい非行
  があったときは、被相続人が家庭裁判所に申立てる、または遺言で廃除を記載し遺言執
  行者が家庭裁判所に申立てることにより、審判の確定によって推定相続人の相続権が失
  われます。

 

   ② 被相続人の直系尊属
    第一順位の相続人である子がいない場合、更にその代襲相続人もいない場合は、第二順
  位として被相続人の直系尊属である、父母・祖父母が相続人になります(民法889条1
  項1号)。
   
  尊属の意味ですが、血のつながりがある血族の内、自分より前の世代にある人(親・
  祖父母)を尊属といいます。卑属とは、自分より後の世代、下の世代にある者(子・孫)
  をいいます。

 


  普通養子縁組を行っているときは、実父母、養父母も相続人になります。
  直系尊属の中では、親等の近い人が優先します。例えば、父母は祖父母より優先して相
  続人になります。

  親が相続人になる場合は、通常は多くないと思われますが、子が様々な事故に遭って亡く
  なったときに、配偶者がいない場合に、子の財産を父母が相続します。

 

  ③ 被相続人の兄弟姉妹
  第二順位である直系尊属がいない場合は、被相続人の兄弟姉妹が相続人となります。
  例えば、被相続人に配偶者がいるが、子も直系尊属もいない場合です。

  実の兄弟姉妹と養子縁組の兄弟姉妹であると問わないとされていますし、兄弟姉妹の中
  で既に死亡し、相続欠格、廃除があったときは、その者に子(甥・姪)がいれば相続人
  となります。

  なお、第一順位の相続人がいると、第二順位や第三順位の相続人は相続することができ
  ないことになります。つまり、先の順位の相続人がいない場合に限り、後の順位の相続人
  が相続することができます。

 
  ④ 被相続人の配偶者
  被相続人の配偶者または)は、常に相続人となります。相続する順位による相続人
  がいるときは、その相続人と同順位で共同相続人となります。これは、夫婦の財産は夫婦
  共に築いてきたためとされています。

  相続人として、相続権を有する配偶者は、婚姻届を出している法律上の配偶者に限定され
  ます。事実上、同居しているが、婚姻届を提出していない事実婚の配偶者相続権が認め
  られていないことに注意が必要です。

 

  内縁関係では、一緒に生活したいたとしても相続権は発生しません。

 

  なお、配偶者は、常に相続人になりますが、これは第一順位の子がいれば共に相続人と
  なり、第一順位の子がいなければ、第二順位の相続人である被相続人の父母・祖父母と
  共に相続人となり、子や父母がいないときは、第三順位の兄弟姉妹と共に相続人となり
  ます。

 

   (4) 相続分について
  相続人が数人いる場合、各相続人の割合が相続分とされています。相続分は法律に
  よって具体的に定めらています(民法900条)。これが法定相続分と言われています。


  遺言が存在しないときは、民法の定める法定相続分によって処理されます。

  ① 配偶者と子
  被相続人の配偶者と子が共同相続人となる場合、配偶者の相続分は2分の1、子の相続
  分は2分の1
子が数人いるときは、2分の1を均等に分割します。

  ただし、数人の子の中で嫡出子と非嫡出子がいるときは、嫡出子が2非嫡出子が1の割合
  で子の相続分である2分の1を分割することになります(民法900条4号但書)。

  ② 配偶者と直系尊属
  被相続人の配偶者と直系尊属が共同相続人となる場合は、配偶者の相続分は3分の2
  直系尊属の相続分は3分の1
です。すなわち、直系尊属である父母(養親ある父母)が
  均等に分割し相続します。


  また、父母が死亡しているが、祖父母が生存しているときは、祖父母が同じ割合で相続
  します(民法900条2号4号)。

 


  ③ 配偶者と兄弟姉妹
  被相続人の配偶者と直系尊属が共同相続人となる場合は、配偶者の相続分は4分の3
  兄弟姉妹は4分の1
です。兄弟姉妹が数人いるときは、この4分の1を均等に分割します。

  なお、父母双方を同じくする者(全血の兄弟姉妹)と父母の一方を同じくする者(半血の兄
  弟姉妹)がいる場合には、相続分の割合は、2分の1となります(民法900条3号、4号)
  俗にいう腹違いの兄弟姉妹です。

 

  例えば、相続人が兄と弟のときに、兄は父母双方を同じですが、弟は母が後妻の場合は、
  兄の相続分は3分の2、父が共通な弟は3分の1とされています。

  ④ 配偶者がいないとき
  被相続人に配偶者がいない場合は、第一順位の被相続人の子、第二順位の直系尊属
  、第三順位の兄弟姉妹の順番で相続人となります。子、直系尊属、兄弟姉妹が数人いる
  ときは、均等に分割して相続します。

  ⑤ 代襲相続人の相続分
  被相続人の子、兄弟姉妹には、死亡・相続欠格・廃除の場合に代襲相続が認められます
  が、代襲相続人の相続分は、親である被代襲者の相続分と同じです(民法901条)。

  代襲者が数人いれば、均等に分割して相続することになります。

  (5)相続分の修正 指定相続分・特別受益・寄与分
  民法の規定する法定相続分は、遺言によって変更することが可能です。また、マンション
  の購入費用を出して貰った場合のように、被相続人から生前に特別に贈与を受けたとき、
    親の商売を手伝った等、財産の維持発展に寄与した相続人がいるときには、相続人間の
    公平をはかるために、取り分を変更して相続分を決定して行きます。
  
  ① 指定相続分
  被相続人は、民法の規定する法定相続分にかかわらず、遺言で共同相続人の相続分を定
    め、またはこれを定めることを第三者に委託することができます(民法902条)。
  これが指定相続分と言われ、法定相続分に優先することになります。指定相続分は被相
  続人の意思を尊重するものです。


  相続分の指定は、親族間の紛争を防止する観点から、遺言でいなければならないとされ
  ています。

 

  相続分の指定の方法は、普通、妻の相続分は3分の2、長男の相続分は3分の1とのよう
  に共同相続人が承継する相続財産の割合で定められます。
  なお、共同相続人の一部についてだけ指定されたときは、残りの共同相続人の相続分
  は法定相続分に従って相続されます(民法902条2項)。

  もっとも、指定相続分は、民法の定める法定相続分に優先しますが、相続人の遺留分まで
  は奪うことはできないとされています
(民法902条1項)。相続分の指定により遺留分を侵
  害された相続人は、遺留分の減殺請求ができます。

  ★ 遺留分とは
  新聞、テレビ等で良く遺留分と言う言葉が聞かれますが、その意味はどのような事でしょうか。
  
  
  遺言者は、原則として、遺言で自己の財産を自由に処分することができますが、これによっ
  て残された遺族の生活が困る事になっては、大変です。

  そこで、被相続人の遺言の自由との残された遺族の生活を確保するために、法律上、一定
  の範囲の相続人に残さなければならない相続財産の一定割合を遺留分と言います。
  
  即ち、民法上、認められている最低限の相続分といえます。

  兄弟姉妹以外の相続人が、遺留分権利者とされています(民法1028条)。配偶者、子
  、その代襲相続人、直系尊属です。

  遺留分の割合ですが、a 配偶者や子が相続人のときは、被相続人の財産の2分の1
  b 父母等の直系尊属のときは、被相続人の財産の3分の1となっています。

 

  なお、遺留分が侵害された遺言なされた場合、相手方に対して財産の取り戻しを請求する
  ことができます。これが遺留分減殺(げんさい)請求です。

 

   ② 特別受益  
  共同相続人の中に、例えば、被相続人より生前に、家を建てるために土地を貰った場合、
  事業を開始するために事業資金の援助を受けていた場合、結婚をするときにマンションの
  購入資金を出して貰っていた場合等のように、財産の贈与・遺贈を受けた相続人と何も
  もらっていない相続人との相続分を法律の定める法定相続分に従って平等に分けるとす
  ると、アンバランスですし、不公平な結果になります。なぜなら生前に贈与を受けた相続
  人は、他の相続人よりも二重の利得をすることになるからです。


  そこで、民法はこのような特別の利益に関しては、特別受益を相続財産に加えて具体的な
  相続分を算出する規定を置いています。この規定が特別受益制度です(民法903条1項)

  即ち、共同相続人の中に、被相続人から遺贈(遺言による贈与を遺贈と言います)や生前
  に贈与を受けていた相続人がいるときは、これらの遺贈や贈与の利益を相続分の前渡しと
  見て、贈与の価格を相続財産に加えます。そして、民法の定める法定相続分に従って各相
  続人の相続分を算出し、生前に贈与を受けていた相続人は、相続分から遺贈または贈与
  の価格を控除します。その残額が特別受益を受けた者の具体的な相続分となります。


  なお、被相続人には生前の財産処分の自由や遺言の自由があります。このため、被相続
  人がはっきりと、これと異なる意思表示をしていたときは、遺留分の規定に違反しない限り
  有効となります(民法903条3項)。


  生前贈与や遺贈をうけた相続人は、持ち戻し(返還)の必要はなくなります。


  ★ 特別受益の具体例
  特別受益は、被相続人から生前贈与を受けた場合、遺贈された経済的利益を言います。
  具体例として以下を挙げることができます。
    
  a 被相続人からの遺贈
  遺言により贈与されたもの、遺贈は特別受益に該当することに問題はありません。

  b 婚姻・養子縁組のための贈与
  持参金、嫁入り道具等の財産、支度金は特別受益とされています。結納金や結婚式費用
  は一般的に含まれないとされています。

  c 生計資本としての贈与
  住居の新築資金、事業を開始するについての営業資金等、広く認められます。

  d 生命保険金
  生命保険金は、特別受益を定める民法903条に規定されていないため、また遺贈や生前
  贈与と同じ働きがあるため問題となります。

  この点、判例は、死亡保険金請求権または死亡保険金は、特別受益には当たらないとし
  たが、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が本条
  の趣旨に照らし到底是認することができない程に著しいものであると評価すべき特段の事
  情が存する場合には、本条の類推適用により、死亡保険金請求権は特別受益に準じて
  持戻しの対象になる。」と判示しています(最高裁判所 平成16年10月29日)。

 

   ③ 寄与分
  被相続人の財産形成、増加、維持に貢献した者に寄与分として財産を与えようとする制度
    です。昭和55年の民法改正において新たに設けられました(民法904条の2)。

  
  共同相続人の中に、被相続人の事業に労務を提供したり、財産を提供した場合、被相続
    人の療養看護を行う、その他の方法により、被相続人の財産の維持増加に特別の寄与、
    貢献した者がいるときには、寄与した相続人は、本来の相続分とは別にさらに、その寄与
    分を相続財産の中から取得する権利があります。これが寄与分です。

  即ち、共同相続人の中に、家業である農業を手伝い、また商店経営に従事して商売を繁盛
    させ財産の増加、維持に特別に貢献した者がいる場合、相続財産が大きく増えたのに、
    法定相続分に基づき平等に相続するのは不公平です。
    
    相続財産の増大、維持に貢献した者の努力を評価して、公平のために相続分に反映さ
  せる制度です。

  例えば、兄弟2人が相続人である場合、長男だけが被相続人である父の事業を手伝い事
  業の発展、維持に貢献し、さらに介護をしていたが、次男は一切、事業の手伝いや療養
  看護を行わなかった場合、相続財産が2000万円、長男の寄与分が800万円とします。
  
  寄与分を前提とした相続分は、以下の方法で算出します。

  a 相続財産から寄与分を控除し、みなし相続財産を計算します。2000万円から長男の
  寄与分800万円を引くと、1200万円になります。

   みなし相続財産を前提に法定相続分に基づき各相続人の相続分を計算します。
  1200万円×2分の1で600万円となり、これが次男の相続分となります。

  c 寄与分を控除した後の具体的な相続分に寄与分を加えます。長男の相続分の600万円
  に寄与分である800万円を加えますと1400万円となり、これが寄与分を反映させた長男の
  の相続分です。


    ★ 寄与分の注意点
  a 寄与分を請求できる者は、条文上「共同相続人」とされているため、共同相続人に限定さ
  れます。なお、代襲相続人は、共同相続人となりますので、寄与分の主張ができます。


  しかし、内縁の妻、事実上の養子、妻や婿といった相続人の配偶者は相続人ではないた
  め寄与分を請求する事はできません。また、相続を放棄した者は、初めから相続人とならな
  かったとみなされるため(民法939条)、寄与分の主張は認めれていません。


  b 寄与分の手続きは、共同相続人全員の協議で決める事になっていますが、協議がまと
  まらないとき、協議することができない場合は、家庭裁判所は、寄与者の請求により寄与
  の時期や方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して審判によって寄与分
  を定めます(民法903条の2、2項)。

 

   (6)相続財産の範囲(遺産の範囲)
  被相続人の死亡により、相続が開始すると、原則として被相続人の財産(資産)及び借金
  等の負債をそのまま引き継ぎますが、例外として例えば、生命保険金や扶養請求権等は
  相続されないとされています。


  財産の中には、相続される財産と相続されない財産があります。相続財産とは、一般的
  に相続の対象となる財産の意味です。


  ① 相続の対象となる財産
  被相続人の死亡によって相続が開始したとき、相続人は、原則として被相続人の財産に属
  していた一切の権利義務を承継します(民法896条)。

  例えば、土地や建物の不動産、貴金属、宝石、自動車等の動産や借地権、借家権、お金を
  貸しているときの貸し金、特許権等の産業財産権が移転します。

  また、損害賠償請求権、さらに財産上の財産関係や売買契約における売主としての地位等も
  すべて包括的(すべて引っ括めて)に相続人に移ります

  それゆえ相続は、包括承継と言われています。


  ★ 包括承継とは、他人の権利義務をひっくるめて、一括して引き継ぐことを言います。
  例えば、相続や会社の合併です。相続人は被祖続人の権利義務を一身専属権を除きひっ
  くるめて引き継ぎます。

  これに対して、他人の権利を個々に取得し、引き継ぐ事を特定承継と言います。
  例えば、売買契約によってある建物の所有権を取得します。
  
  因みに、相続によって引き継ぐのは、資産だけではなく借金や買掛金、地代や家賃の滞納
  金、滞納した税金等のマイナス財産をも相続するのが原則です。
多額の借金がある場合に
  は、相続の放棄またはプラスの財産の限度で相続するとの限定承認と言う制度があります。

  
  相続財産にどのような権利義務が含まれるかについて問題となるのは以下のとおりです。

  
  a 祭祀財産
  家系図等の系図、仏壇や位牌等の祭具、墳墓の承継については、第一に被相続人の指定
  第二に指定がないときは慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継し、第三に慣習
  も明らかでないときは、家庭裁判所が定めた者がこれを承継するとされています。

  また、これらの承継人は、内縁の妻等必ずしも相続人に限らないとされています。

  なお、香典や弔慰金は、喪主に対する贈与と考えられ、相続財産に含まれないとされて
  います。

  b 生命保険金
  生命保険金請求権は、相続財産に含まれていないとされています(最高裁判所 昭和40
  年2月2日)。なぜなら、被相続人の死亡を原因として相続人に支払われる金銭は、もともと
  相続人に支払われることが予定されています。
  したがって、被相続人の財産として相続人に承継されるとは言えないからです。

  換言すれば、生命保険金は、保険者である生命保険会社と保険契約者との契約によっ
  て、被保険者の死亡を原因として保険金の受取人が直接に取得するものであって、相続
  によって取得するものではないからです。

  
  このことから、相続を放棄しても生命保険金を受領することはできます。もっとも税法上は、
  みなし相続財産として、生命保険金を受け取った相続人に相続税が課せらる事になりま
  す。


  C 退職金請求権
  会社に勤務していた従業員が、在職中に死亡した場合は会社と従業員のとの労働契約は
  終了しますが、このような場合に支払われる退職金は、死亡退職金と言われています。

 

  この死亡退職金が相続財産に含まれるか否かに関して争いがありますが、死亡退職金は
  法律や就業規則等により受給者の範囲が決定されていることから、遺族である受給権者
  が請求できることになり、相続財産に含まれないことになります。

  (最高裁判所昭和55年11月27日)。

  例えば、就業規則において配偶者が第一順位の受取人と定めているときは、配偶者が死
  亡退職金を受け取ることになります。


  なお、従業員が会社を退職した後に死亡した場合は、被相続人が退職金請求権を取得し
  死亡により相続財産となり相続人が相続することになります。


  d 遺族年金
  恩給法、厚生年金法等により被相続人と一定の関係にある人に支払われる支払われる遺
  族年金は、法律により受け取る者が決められていますので、年金を受けとる人の固有の
  権利であり、相続財産をではありません

  従って、遺産分割を行う必要はないことになります。


  e 保証債務
    保証債務とは、主たる債務者が債務を履行しないときに、その履行をする責任を負うことを
  言います(民法446条)。例えば、他人が100万円の借金をしたときに、借主が万が一
  返済できない場合、保証人となった者が借主に代わって100万円を債権者に返済しなけ
  ればないない債務です。

 

  保証人に相続が発生した場合、相続人に被相続人の負担していた保証債務が相続される
  か否かについては、保証債務の性質によって異なります。

  普通の保証債務は相続されます。例えば、被相続人が100万円の借金の保証人になって
  いた場合、相続人は保証債務を相続します。

  身元保証の場合、例えば大学に入学する場合、企業に就職するときに身元保証書を提出
  しますが、この身元保証債務、つまり身元保証人の地位は相続されないとされています
  (大審院昭和12年9月10日)。これは、保証の範囲が明確ではなく、予想を超えた責任を
  可能性があるためです。

  もっとも、身元保証人が死亡し相続が生じた時に、既に発生していた債務、例えば、身元
  保証した者が会社に損害を与え50万円の債務を負っているとき、相続の対象になります。


    ②  一身専属的な権利義務は相続の対象とはならず、相続されません。
  民法は、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承
  継する。但し、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。」と規定しており、
  一身専属権は相続人に承継されないことになっています(民法896条)。

  一身専属権とは、権利義務の性格上、本人(被相続人)にだけ帰属し相続人に帰属させる
  事ができない権利義務を言います。即ち、権利義務の性質上、被相続人自身が履行する
  場合、個人的な信頼関係に基づく場合は一身専属権といえます。


  例えば、使用貸借では、借主の死亡によって使用貸借契約は終了し無償で物を使用する
  権利は相続人に承継されません(民法599条)。委任契約でも、委任者・受任者のいずれ
  かの死亡によって委任は終了し、受任者の地位、委任者の地位は相続されないことになり
  ます(民法653条)。これらは、個人の信頼関係に基づいているからです。


  また、扶養を受ける権利は、長系血族、兄弟姉妹の親族間では、自分の収入で生活でき
  ない者を扶養する義務があり(民法877条)。当事者の協議等で扶養内容が決定された場
  合には扶養権利者は、扶養料を請求することができます。
  しかし、この扶養請求権は、本人の生活を助けるための権利、言わば一身専属権であり本
  人の死亡しても相続人には相続されないことなります。

 

  (7)相続の放棄・相続の承認
    相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します。
  (民法896条)しかし、被相続人に多額の借金があった場合や財産を貰いたくないと考え
  相続人もいます。

  そこで、民法は相続財産(遺産)の相続を強制することなく、相続財産を相続する事を受
  け入れるか否かを相続人の自由な判断に委ねています
。相続人は、相続するかどうか
  の選択をすることができます。

  これには、借金は当然ですが相続財産のすべてを拒否する相続の放棄(民法938条)
  と借金を含めた相続財産を相続する相続の承認があります。
  相続の承認には、限定承認と単純承認と言う方法があります。


  ① 相続の放棄
    相続の放棄とは、自分の被相続人の相続財産を相続しない事を意思として表示すること
  を言います。つまり、相続人が相続開始によって承継する相続財産の帰属をすべて拒否
  することを言います。(民法938条、940条)。

  相続の放棄は、被相続人に多額の借金があり、借金を引き継ぎたくないとき、特定の相続
  人に相続財産を集中させたいとき、例えば農地の細分化を防止するために行われます。

  
  相続の放棄が行われると、「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続
  人とならなかったものとみなす。」(民法939条)とされ、被相続人の財産に属した一切の
  権利義務を承継しない事になります。


  相続放棄した者に関しては、子供や孫の代襲相続は生じないとされています。

  相続放棄をした者がいる場合は、放棄した者を相続人の数に算入しないで、相続分を計算
  することになります。

  例えば、相続財産4000万円で、相続人が妻と子供2人の場合、子供の1人が相続放棄
  したときは、放棄した子供は最初から相続人ではなかった事になるため、相続人は妻と子
  供の2人となります。民法の規定する法定相続分によって、妻2分の1で2000万円
  子供は2分の1で2000万円ととなります。相続の放棄が行われないときの相続分は、
  妻は2000万円、子供は2分の1を2人で分けるため、子供1人で1000万円づつ相続
  することになります。


 ★相続放棄を行うには、民法の定める一定の手続を経ることが必要とされています。

  a 相続放棄は、相続人が自己のために相続が開始されたことを知った時から3カ月以内に
  家庭裁判所に相続放棄の申述
(家庭裁判所に放棄の申述書を提出します)をしなければ
  ならないとされています(民法915条、938条)。この3ヵ月の期間を選択期間または
  熟慮期間といいます。

  相続放棄を行う場合、どのような相続財産があるのか調べる必要性があるときもあります。
  また、相続人が遠隔地に居住しているため調査に時間がかかる場合もあります。
  そこで、この期間を家庭裁判所に請求し延長してもらうこともできます。


  b 相続放棄は被相続人の住所地を管轄する家庭する家庭裁判所に相続放棄申述書を提
  出
します。相続の放棄が相続人本人の自由な意思に基づくものであることを確認し、受理
  されますと相続放棄の効力が生じ、放棄した相続人は、その相続に関しては初めから相続
  人にならなかったとされます。

  この手続きを行わない相続放棄は、効力が生じないとされています。

  c 相続放棄は、被相続人の借金のみと言ったように相続財産の一部だけを放棄すること 
  はできず、相続財産の全部を放棄することが必要です。

   ② 限定承認
    限定承認とは、被相続人の債務(借金)及び遺贈を相続によって得た相続財産の限度
  において支払う事を条件として相続をすることを言います(民法922条)。

  例えば、被相続人には、財産もあるが借金もかなりあり、財産が多いのか借金が多いの
  か分からないときは、そのまま相続するか、それとも相続の放棄を行うべきか判断に迷う
  場合があると思われます。
  このような場合に、相続財産の範囲内において借金を負担するという相続形態である
  限定承認が利用されます。

  限定承認は、被相続人の財産(プラス財産)や借金、負債(マイナス財産)を引き継ぎ
  ますが、相続した財産の範囲内においてのみ借金、負債を支払えばよく、自己の財
  産で被相続人の借金や負債を支払う必要がありません。


  ★ 限定承認の方法・効果
  a 限定承認は、原則として、相続人が相続が開始したことを知った時から3ヵ月以内
  (熟慮期間といいます)に財産目録を作り被相続人の住所地または相続開始地の家庭
  裁判所に相続限定承認申立書を提出します(民法924条)。

  また、相続人が複数いる場合には、相続人全員が共同して限定承認を行わなければなら
  ないとされています(民法923条)。相続人の中で1人でも単純相続をする相続人がいれ
  ば、限定承認はできないことにりますが、相続人中で相続放棄をした相続人がいるときは
  は、相続放棄をした者以外の相続人全員の合意によって限定承認を行う事ができます。

 

  なお、この限定承認は、財産目録を作成しなければならず、財産目録に記載漏れあった
  ときは、単純承認したものとみなされ、また、家庭裁判所において申立書が受理されて
  ときから5日以内に債権者・受遺者に限定承認したこと並びに一定の期間内に請求の申出
  をすべき事を公告しなければならないとされています(民法927条)。


  
  このように、限定承認は手続きが面倒なことから相続放棄に比べ実務上はあまり利用
  されていないのが実情です。

  
  b 限定承認の効果として、相続人は相続財産の限度においてのみ被相続人の債務及び
    遺贈を弁済すべきことを留保して相続する事になり(民法922条)、相続人はたとえ借金
    等の相続債務及び遺贈が相続財産を超過した場合であっても、相続財産の限度において
  のみその債務を弁済すれば良く、自己の財産で借金等の相続債務を弁済する必要はない
  ことになります。

  これは、被相続人の相続債務をすべて承継しますが、債務の引当となるのは相続財産を
  限度とすることになります(判例)。

 

  ③ 単純承認
  単純承認とは、被相続人の権利義務を無限(無条件・無制限との意味です)に承継するこ
  とを言います(民法920条)。単純承認がなされたときは、相続人は無条件、無制限に
  被相続人の権利義務を承継しますので
、相続財産をもって被相続人の借金等の相続債務
  を返済できない場合には、相続人は自分の財産で返済しなければならないことになり
  ます。

  
  
  ★ 単純承認の方法・効果
  単純承認は、相続放棄や限定承認のように届出等の一定の手続きを取る事は要求され
  ていません。

  
  従って、次の場合には単純承認したことになります(民法921条)。
   3年以内の建物の賃貸借契約、未登記建物の登記等の保存行為以外で、相続人が
  相続財産の全部または一部を処分した場合
  
  b  相続人が自己のために相続開始があったことを知った時から3ヵ月以内に限定承認
  または相続放棄をしなかった場合

  c  相続人が借金等のマイナス財産を相続しないため、相続放棄や限定承認を行った後に
  財産の全部若しくは一部を隠匿、ひそかに消費し、または悪意(相続財産がある事実を
  把握しながら)で財産目録に記載しなかった場合

  例えば、3ヵ月以内であっても、被相続人の土地を売ったり場合には、a の相続財産の
  一部を処分することになるため、単純承認を行ったとみなされ、相続放棄はできない
  ことになります。

  
  単純承認した相続人は、被相続人の権利義務を無条件・無制限に承継することになり
  相続した相続財産で借金等の負債を返済できないときは、相続人自身の財産で支払
  わなければならないことになります。

 

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