【遺産分割】

Ⅰ.遺産分割の概要
  (1)遺産分割とは
  被相続人の死亡によって相続は開始され、相続人は相続人の相続財産、遺産を承継する
  ことになります(民法898条)。このときに、相続人が複数いる場合は相続財産である
  遺産は、複数の共同相続人の相続分に対応した共有(共同所有)している状況となって
  います。

  この共有状態にある相続財産である遺産を各相続人がどの財産を相続するのか具体的
    に決定するための話し合い
が遺産分割協議です(民法906条)。

     遺産分割の方法は、民法の定める各相続人の法定相続分が一応の基準になります。

  遺産分割は、すべての相続人全員で共同所有・共有している相続財産を分ける事に
  なるため、相続人全員が納得し合意していれば法定相続分と異なる分割も有効となり
  ます。例えば、兄弟2人が相続人の場合に、二男に遺産の全部を取得させて、長男は
  何ももらわないという内容の遺産分割協議でも問題はありません。


  もっとも、遺産分割協議は、相続人全員で行われなければならず、相続人の1人でも
  参加しない遺産分割協議、一部の相続人の意思を無視した遺産分割協議は無効とされ
  ています。

  即ち、相続人全員の自由意思に基づく協議によって法定相続分と異なる分割は有効
  とされています。 

  ★ 指定分割
  相続人全員の協議による分割の外に、指定分割があります。指定分割は、被相続人が
  遺言で配偶者である妻には土地と建物、長男には、保有している株式全部、次男には
  預金すべてと言うように指定した場合及び第三者に指定の委託をした場合です。
  (民法908条)

  指定の方法として、配偶者である妻に土地、建物は長男、預金は次男にと言うように
  具体的に指定するすることも、また土地は妻と長男に、預金は次男にとのような抽象
  的な指定も可能とされています。

  遺産分割の開始時期について、民法上の規定は存在しておりませんが、長い期間を経
  過してしまうと、遺産が分散します。世代交代により遺産分割の手続きが煩雑になります。

  相続開始後に落ち着いてから、あまり遅くならない時期に話し合いを行うことが肝要
  と思われます。

  (2)遺産分割の手続き
    遺産分割の手続きとして、相続人間の協議によって遺産を分ける協議分割、協議が成立
  しないまたは出来ない場合は、家庭裁判所に遺産の分割請求を行い、調停による分割の
  合意ができた場合を調停分割、調停による遺産分割ができないときは、家庭裁判所の審
  判
によって遺産分割が行われます。これが審判分割です(民法906条)。


  なお、遺産分割は、相続人や遺産の範囲に争いがあり、また農地のようにすぐに分割する
  ことが妥当でない場合には、遺産分割を制限する事ができます。
                                            
  a 遺言による分割禁止
  被相続人は、遺言で遺産の全部または一部につき相続開始の時から、5年を超えない期
  間に限って分割を禁止することができます(民法908条)。

  b協議による分割禁止
  相続人間の協議によって、5年を超えない範囲内に限って分割の禁止をすることができ
  ます。

  c 審判のよる分割禁止
  家庭裁判所による審判によって分割を禁止することが可能です。即ち、家庭裁判所は「特
  別な事由」があるときは、期間を定めて分割禁止をすることができます。
 (家事審判規則112条)

  ① 遺産分割の当事者
  相続人全員が、遺産分割の当事者となります。この他に包括受遺者(民法990条)相続分
  を譲り受けた者(民法905条)遺言執行者(民法1012条)も相続人以外の者ですが当
  事者となる場合があり、これらの者を無視して実施された遺産分割は、無効です。

  これに対して、相続の放棄をした者、相続欠格者、相続人して廃除の審判を受けた者は当
  事者とはならなことになります。

 


  ② 遺産分割の当事者の相続人に制限能力者がいる場合
  a 未成年者の場合
  相続人が未成年者のときは、未成年者が法定代理人の同意を得て遺産分割協議に参加
  する若しくは法定代理人が遺産分割協議に参加することになります(民法4条、824条)。

     もっとも、未成年者である子と法定代理人である親権者(例えば親)の利益がお互いに
  相反する、衝突するときは、親権者であっても代理権の行使はできないとされています。     
  これは、自己と第三者の利益がぶつかるときは、第三者の利益になるような行動をとる
  ことは、一般的に期待できないからとされています。

  遺産分割協議は、相続人の利害が対立している場面です。したがって、未成年者と親権者
  である親が同じ被相続人の相続人の場合には、遺産分割の話合いは、利益が相反、衝突
  場面にあたります。よって、親権者である親は、未成年者である子を代理して遺産分割の
  話合いを行うことはできないことなります。


  そこで、家庭裁判所に対して未成年者の子を代理する「特別代理人」を選任してもらい、
  この特別代理人が遺産分割協議に参加することになります

  b 成年被後見人の場合
  成年被後見人は、自分の行為の結果を弁識する、理解する精神能力を欠くている状態の
  ため、後見人が遺産分割に参加することになります(民法9条、856条)。

  成年被後見人が、遺産分割に加わった場合は、取消すことができます

  c 被保佐人の場合
  被保佐人は、保佐人の同意を得ることによって遺産分割を行うことができます(民法13条
  1項6号)。

 

  (3)遺産分割の方法
  ① 全部分割、一部分割

  全部分割は、遺産全部を一度に分割する方法です。一部分割は、遺産の内の一部を分割
  することを言います。例えば、借金の支払い日が迫ってためある土地を譲渡し借金の支払
  いに充てる場合にある遺産だけ処分して支払いにあて、残りの遺産はじっくりと時間をかけ
  て協議して行く場合です。
  なお、一部分割は相続人全員が合意していれば、有効とされています。


  ② 現物分割 代償分割 換価分割 共有分割
  相続人全員で遺産分割を行う場合、以下のような方法がありますが、いくつかの分割方法
  を組み合わせる事が多いとされています。

  a 現物分割
  現物分割は、遺産に属する財産をそのままの形で分割する方法です。例えば、建物は妻、
  ○○株式会社の株式は長女にのように分割します。また200坪の土地は長男と次男に
  100坪づつ分けて共有することも可能です。

  現物分割は、基本的な分割方法です、法定相続分にピッタリした分割を実施するのは難し
  い場合が多く公平を欠く事もありますが、相続人全員の合意があれば有効です。

  b 代償分割
  代償分割は、遺産の現物を相続人の1人または数人に相続分を超える遺産の現物を相続
  させて、もらい過ぎた分(超過分)を金銭で他の相続人に支払う方法です。
  例えば、遺産が農地、工場の場合のように、遺産を分けることが妥当でなく後継者に遺産
  を相続させることが有益な場合に用いされます。

  因みに、代償分割の時に支払われる金銭、代償金には譲渡所得税がかからないとされて
  います。

  
  c 換価分割
  換価分割は、遺産を売却し金銭に変えて、相続人の各相続分に応じて分割する方法
  です。
  例えば、農地のように分割することが妥当でない場合に換価分割がなされます。

  この方法は、金銭を配分するため相続人間の公平が確保できますが、一方、遺産そのもの
  処分するため、遺産を従来とおりに使用することができなくなります。

  因みに、遺産を売却して得た金銭、つまり換価代金には、譲渡所得税がかかります
  

  d 共有分割
  共有分割は、遺産の全部または一部をを相続人全員で共同して所有する方法です。
  
                                      

  (4)遺産分割の基準
  遺産分割の基準について民法は、「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び
  性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して
  これをする」と規定しています。

  これは、相続人間の遺産分割が具体的に公平に行われ、遺産そのものの社会的な価値
  が維持
出来るように遺産分割が行われることを想定しています。
  
  例えば、遺産の現物分割、代償分割、換価分割、共有分割の選択、組み合わせについて
  は、遺産の性質(土地か建物か、宅地か農地であるのか、居宅か貸家であるのか、現金
  か債権であるのか、それとも有価証券であるのか等)、相続人側の事情(年齢、職業、
  身体や精神の状態、生活状況等)同居の有無等の相続人と被相続人との関係について、
  一切の事情を考慮して分割することになります。

 

  通常、遺産分割は、土地建物は長男に預金は次男に、○○株式会社の株式は長女にとい
  うよに遺産を現物で分けることが多いと思いますが、遺産分割の結果、遺産の価格や
  価値に著しい差がれば、超過分を金銭で支払う代償分割が用いられます。

  現実に遺産分割をするときは、遺産の内容と相続人全員の内情に照らして分割方法が
  決定れて行きます。
  
  また、厳格に各相続人に相続分にあたる財産的価値を割り当てなければ遺産分割協議
  が無効となるわけではありません。

 

  (5)遺産分割の効果
  相続人全員の話し合いにより、遺産分割協議が成立した場合は遺産分割は確定します。
  各相続人は遺産分割協議の内容に従って、具体的な相続内容が決まります。      

  
  ① 遺産分割はさかのぼって効力が発生します
  遺産分割が確定すると、遺産分割は相続開始の時にさかのぼって効力を生じます。
  即ち、各相続人は遺産分割によって取得した相続分を相続開始の時(被相続人の死亡時)
  にさかのぼって取得したことになります(民法909条)。

  例えば、土地建物を妻、長男は預金全部、次男には○○株式会社の株式全部を取得させ
  るという遺産分割協議が成立した場合は、さかのぼって妻は被相続人の土地建物を直接 
  に相続により取得します。長男の預金全部、次男の株式全部も同様です。

  
  また、遺産分割協議が成立により、遺産分割は確定するため特別受益や寄与分を主張す
  ることはできないことになります
。さらに、遺産分割の内容が履行されない場合であっ
  ても遺産分割協議の解除はできないとされています(最高裁平成元年2月9日判決)。


  ② 遺産分割協議書の作成
  遺産分割協議が成立した場合、一般的に遺産分割協議書を作成します。この書面を作成
  するか否かは相続人の自由ですが、相続によって土地や建物を取得したときに相続に
  よる所有権移転登記を行う場合に添付書類して必要です、また協議内容を書面に明確
  にしておいた方が証拠となり紛争を防止することができます。
  

  ★ 遺産分割協議書作成上の注意点
  a 誰がどの遺産を取得するのか具体的に明記します。また、誰が目録外の代償として
  誰に何時までに支払うののか、第三者に遺贈がある場合誰が負担し行うのかを明記し 
  ます。
  
  b 不動産の表示は不動産登記簿(登記事項証明書)のとおり記載します。住居表示で
  なく地番とおりに書きます。また、住所は住民票または印鑑証明書に記載されている
  とおりに書くことが必要です。

 

   c 押印は、印鑑登録をした実印で行います。協議書の署名は、サインでも三文判でも
  有効ですが、登記手続きのためには、実印を押す必要があります。

 

  d 遺産分割協議書が数枚に渡るときは、割印を押します。作成数は、各相続人等の
  参加者全員分です。

  e 後日に発見された遺産は、誰に帰属するのかを明確にしておく必要がります。
  「財産どの相続人に帰属する」または「法定相続分に従う」との記載が重要です。


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